本探しの旅

この前、とある方と話していて「そういえば本選びもしていますよね」と言われてハッとしました。近頃は「この本を読んでください」と依頼されたものを読ませて頂く機会が多かったのですが、もともとは「この展覧会に合う本を選んでください」と依頼を受けるところから朗読家がスタートしています。そしてこの「本選び」も大事な仕事のひとつです。朗読を始めたころからかなり苦労して、自分なりに試行錯誤してきました。

朗読会、というものに興味を抱いてくださった方は、やはりその人だけの世界観をお持ちでいらっしゃることが多く、ご本人と少なからず会話を交わして、作品や場所の雰囲気にあった本を丁寧に選ばせて頂く、ということをしてきました。

けれどもその作業はなかなか難しくて、テーマに合う・合わないだけではなく、世の中には長編短編様々で、朗読会という数十分の枠にそうそううまく収ってくれるものではなく、文章で読んでいるときはいいけれども音にするとさっぱりわからない、あるいは聴きづらいものも多いです。著作権が生きているものについては著作権許諾の申請もします。ただ、日本の出版システムでは、「そもそも誰がこの本の著作権を持っているの?」というところから調べないといけないことが多く、骨が折れます。
「もし自分に文章が書けたらどんなに楽だろうなぁ」と何度思ったかわかりません。時間や場所やテーマに都合のよいものを作れたら。魔法が使えるみたいな気分になると思うのです。

けれども一方で、頭に浮かんだキーワードや、その人とのやりとりで得た世界観や、「朗読会がしてみたい」と思って頂いた気持ちに添うものが、過去の膨大な物語の歴史のどこかに絶対に隠れているとも思うのです。探しているときは「もう無理だ」と何度も思うのですが、そうして必死になってジタバタしている間にゆっくりゆっくり物語の方から近づいて来、自分がきっとそれを掘り当てられるだろう、という確信を持ち始めます。

そして物語を見つけた瞬間、それまで苦しんでいた本探しが、実はとても面白くてワクワクするものだったんだ、ということに気づくのです。依頼をくださった作家さんのびっくり嬉しそうな顔を見、自分のワクワク感と相まって、やっぱり物語を「探す」ことが面白いなと思うのです。それは、どんな遊びにも代えられません。

ずっと以前、朗読会をご依頼くださった作家さんから「自分の作品からイメージした本で朗読会が生まれるなんて、最高じゃないですか」と言って頂いたことがあります。そして選んだ本に因んだ展覧会のタイトルをつけてくださいました。ありがたいのと、そしてその方が感じられたのと同じように、自分のしていることが他者へ影響する嬉しさに初めて気づいた次第です。
 
「朗読会がしてほしいのだけど・・」という方は、どうぞお気軽にお声掛けください。お気に入りの本をご持参くださっても構いませんし、一緒に「本探しの旅」を楽しんで頂いてもとも思います。展覧会のいっとき、過去に記されたひとつの物語から、ご自身の世界が立ち上がるのを眺めてみるのも悪くないのではと思います。